恩師の訃報
昨日3月31日に桐朋学園大学時代の恩師、紅林こずえ先生が永眠されました。
突然のことでいまだに信じることができません。
先生と初めてお会いしたのは2009年の春。華奢で手足がスラッと長く綺麗なお洋服とサングラスがよくお似合いで、遠くからでもすぐ見つけられるくらい女優さんのようなオーラを放っていらっしゃる方でした。最初にレッスンしてくださった曲はブラームスのピアノソナタ第1番、この曲を聴くと今でも初めてお会いした時のことを思い出します。
紅林こずえ先生は桐朋学園大学音楽学部付属 子供のための音楽教室の初期の頃から井口愛子先生のもとで学ばれ、桐朋女子高等学校を卒業後ジュリアード音楽院に留学され、名ピアニスト&名教師であったヨゼフ・レヴィーン氏とロジーナ・レヴィーン氏のもとで学ばれました。
先生は音楽教室時代から中村紘子さんと同門で、何でもご相談されていました。留学もご相談されたところ、当時アスペン音楽祭に招かれていた中村紘子さんの恩師でもあるレヴィーン氏ご夫妻をご紹介していただけたそうです。それがきっかけとなりジュリアード音楽院に留学されました。よくレッスン中に懐かしそうに思い出話を聞かせてくださいました。
ジュリアード音楽院卒業後はロンドンでも学ばれ、その後ご逝去されるまで桐朋学園大学で教鞭を執られてきました。先生やその世代の音楽家の方々は今日では音楽界の重鎮となられており、先生のコンサートは毎回素晴らしいものでした。例えばチェリストの原田貞夫さんとのデュオ、ヴァイオリニストの名倉淑子さんとのデュオなど素敵なコンサートが目白押しでした。
先生のレッスンはユーモアたっぷりながらも厳しく要求の高い内容で、ご自宅ではご愛用のスタインウェイを弾かせていただきながら丁寧に教えていただきました。先生のご指導のおかげで卒業演奏会に出演させていただけたり研究科へ進学でき心から感謝しております。 外国人の生徒さんもいらっしゃるので、時々英語まじりのレッスンをしてくださったこともあり、日本にいながら英語での音楽用語も知ることができました。
とても気さくで生徒の学びたい気持ちを尊重してくださる先生でしたので、学内の特別公開レッスンには毎回推薦していただき、ミハイル・ヴォスクレセンスキー氏、ジャック・ルヴィエ氏、パスカル・ドヴァイヨン氏、練木繁夫氏のレッスンを受講させていただくことができました。その他、海外のマスタークラスへ参加するよう背中を押してくださったりと広い視野を持たせてくださいました。
卒業後も門下生をお食事会に誘ってくださったり、先生主催のMusic Twigというコンサートで演奏機会を与えてくださったりしました。先生手作りの特製ちらし寿司やお酒を嗜まれた時のジョークなど懐かしい思い出がたくさんです。
私が卒業してパリに留学している間もメールだけでなく年賀状まで送ってくださり、『知佳ちゃん、テロに気をつけてね』と常に生徒のことを気にかけてくださる心優しい先生でした。
最後に先生とお目にかかれたのは昨年10月。私が完全帰国しご挨拶にお伺いさせていただいたのが最後となってしまいました。その時も相変わらずお美しくお元気そうでした。『おかえりなさい。知佳ちゃん変わらないわね。また春にお食事会で会いましょうね。』とお言葉をいただきとても楽しみにしておりました。
ご退官後には愛猫のルンちゃんとのんびりしたいとおっしゃっていたのに、本当に残念です。
紅林先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
↓卒業時の思い出の写真です。
本当にありがとうございました。